第一話『ショーシャンクの空に』

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「…………入り込みました」 「入り込んだ?」 「ええ。いつの間にか、座席に座っているのも忘れて、映画に集中していました。自分が刑務所の中にいるような気になって…………」 さっきの体験を思い出して、僕は深く息を吐き出した。 「主人公のアンディーに共感したからかな」 「そうですね。主人公が自分と同じ性格や環境だったりすると、共感する気持ちも強くなります。それと、映画館で観たこともあると思います」 「映画館で?」 「はい。レンタルビデオ店で借りた映画を家で観るのと、映画館で観るのは違うんですよ。家だと、画面が小さいし、何かの用事が入る可能性もあります。あとは心構えですね。映画館で映画を観るって思ったら、きゅっと心と体が引き締まるんです。一時停止も巻き戻しもできないし、それが不便ですけど、集中度が上がる要素にもなるから」 千映さんは愛おしそうにエントランスホールを見回す。 「映画を最高の環境で観るのなら、やっぱり映画館なんです!」 「…………そうかもしれませんね」
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