第一話『ショーシャンクの空に』

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「上手く…………いったね…………」 掠れた声が僕の口から漏れた。 「…………唇の動きで喋っている言葉がわかるんですか?」 「ええ。俳優さんの唇の動きを見ていたら、自然に覚えちゃいました。あ、日本語と英語を喋る俳優さんだけですけど」 「だけど…………」 本当に唇の動きで喋っていることがわかるのか?  千映さんがウソをついているようには思えないけど…………。 そのことが本当なら石川さんの言葉の意味は、『僕を騙せて上手くいった』ってことになる。 「…………千映さん。僕が声を出していなくても、唇の動きで何を言っているのか当てられますか?」 「多分、できますよ」 「それなら…………」 僕は千映さんから数メートル離れて、唇を動かした。 すぐに千映さんが口を開く。 「ありがとうございます。私の名前をフルネームで覚えてくれていたんですね」 「あ…………」 「悠人さんが口にした言葉は『朝霧千映さん』でした」 「…………当たりです」
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