第一話『ショーシャンクの空に』

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「あ…………雪村さん」 僕はポケットから両手を出して、ベンチから立ち上がった。 「どうして、ここに?」 「…………梶原君たちが、千光寺公園で瀬川さんを見たって言ってたから」 「あ、梶原君たちが…………」 「ずっと寮に戻っていないんだね?」 「…………うん。僕はスマイル電器を辞めるんだから、寮を使うわけにはいかないよ」 「それで、新しい仕事先は見つかったの?」 雪村さんの質問に、僕は首を左右に振った。 「いや。なかなか難しいね。今は時期が悪いみたいで」 「引っ越し先もまだ決まってないのかな? こんなところにいるってことは」 「うん。本当はネットカフェに泊まるつもりだったんだけど、定期預金を下ろすのを忘れちゃってさ」 「…………」 「あ…………大丈夫だよ。僕は男だし、もう四月半ばだからね。多少寒いけど、野宿して死ぬようなことにはならないから」 「そっか…………」 雪村さんは薄い唇を動かした。
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