202人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ…………雪村さん」
僕はポケットから両手を出して、ベンチから立ち上がった。
「どうして、ここに?」
「…………梶原君たちが、千光寺公園で瀬川さんを見たって言ってたから」
「あ、梶原君たちが…………」
「ずっと寮に戻っていないんだね?」
「…………うん。僕はスマイル電器を辞めるんだから、寮を使うわけにはいかないよ」
「それで、新しい仕事先は見つかったの?」
雪村さんの質問に、僕は首を左右に振った。
「いや。なかなか難しいね。今は時期が悪いみたいで」
「引っ越し先もまだ決まってないのかな? こんなところにいるってことは」
「うん。本当はネットカフェに泊まるつもりだったんだけど、定期預金を下ろすのを忘れちゃってさ」
「…………」
「あ…………大丈夫だよ。僕は男だし、もう四月半ばだからね。多少寒いけど、野宿して死ぬようなことにはならないから」
「そっか…………」
雪村さんは薄い唇を動かした。
最初のコメントを投稿しよう!