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『名画座パラディーゾ』のエントランスホールには千映さんがいた。
千映さんは僕に背を向けて、モップで床を拭いている。
まだ、朝の上映まで時間があるのか、客の姿はなかった。
「千映さん」
僕の声に反応して、千映さんが振り向いた。
「あ…………悠人さん」
千映さんは笑顔で僕に歩み寄る。
「あの石に気づいてもらえたんですね?」
「ええ。目立つ石だったし、色が黒だったから。こんなことをやるのは千映さんだと、すぐにわかりました。『ショーシャンクの空に』で黒い石は重要なアイテムですからね」
僕は千映さんの顔をじっと見つめた。
「どうして、僕があそこにいるってわかったんですか? まさか、遠くからでも心が読めるとか?」
「それは偶然ですよ。悠人さんがコンビニでおにぎりを買っているのを見かけて、ちょっと後をつけたんです。変な方向に行くから気になって」
「…………お金はあるんです。あと六万ちょっとですが。でも、毎日インターネットカフェに泊まっていたら、すぐになくなるから野宿していたんですよ」
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