第一話『ショーシャンクの空に』

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千映さんは言葉を止めて、左手を胸元に当てた。 その姿はいつもより緊張しているように見えた。 「悠人さんに私の仕事を手伝って欲しいんです!」 「手伝うって…………映画の仕事を僕にですか?」 いつもより一オクターブ高い声が自分の口から出た。 驚いた僕の顔が面白かったのか、千映さんの口元がほころぶ。 「そうです。チケット売り場での販売や、上映の準備、小さなことでは掃除にポスター貼り、チラシの作成など、いろんな作業があるんです」 「だけど、僕は映画に詳しくありません。いや、詳しくないどころか、普通の人よりも映画のことを知りません。まともに映画を観たのは『ショーシャンクの空に』だけなんですよ?」 「そこは問題ありません。上映作品を決めるのは私ですから。むしろ、中途半端に映画のことを知っている人のほうが向いてないかも」 「…………千映さん」 「同情じゃありませんよ」 千映さんが僕の心を読んだ。
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