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僕が映画館の仕事をする?
そんなこと、考えたこともなかった。
でも、今の状況なら雇ってもらえることは有り難い。
お金も残り少ないし、他の仕事がすぐに見つかるとも思えない。
それに…………。
真剣な目で僕を見上げている千映さんを見つめる。
「…………本当に僕を雇ってもらえるんですか?」
「そのかわり、お給料は少ないですけど。月に十五万円プラス住み込みでいかがでしょうか?」
「住み込み?」
「はい。このビルの二階に小さな部屋があるんです。ユニットバスでお風呂も狭いですけど、野宿よりいいと思いませんか?」
「…………そうですね。今の僕には有り難い条件です」
「じゃあ…………」
「はい。僕でよければ喜んで働かせてもらいます」
僕は新しい雇い主に向かって、深く頭を下げた。
「それで、いつから僕は働けばいいんですか?」
「もし、悠人さんがよければ、今日からでもいいですか?」
「はい。僕も早く仕事を覚えたいから」
「では、改めまして…………」
千映さんは、優雅に一礼をして、笑みの形をしていた唇を開く。
「素晴らしき映画の世界にようこそ!」
鈴の音のような心地よい声が僕の耳に届いた。
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