第一話『ショーシャンクの空に』

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こうして、僕は『名画座パラディーゾ』のスタッフになった。 映画をほとんど観たことがなく、映画館にも行ったことがなかった僕が映画館のスタッフになるなんて、人生は驚きだ。 だけど、僕の胸は高鳴っていた。 なにもわからない仕事は不安だが、期待もある。 『ショーシャンクの空に』を観たことで、少しだけど映画に興味が湧いたのも事実だし、もしかしたら、もっと心に響くような映画に出会えるかもしれない。 そうなったら、いいのだけど。 映画に興味が持てるようになったら、仕事に誇りを持てるようになる。 それは、きっと素晴らしいことだろう。 そう…………興味と言えば、僕は新しい雇い主が気になっている。 二十四歳の若さで映画館のオーナーであり、支配人であるあの人に。 外見に興味があるわけじゃない。 気になるのは、その頭脳だ。 彼女は何度も僕の心を読み、デジカメを盗んだ犯人を当てた。 表情や仕草や言葉から推理したらしいけど、僕には超能力か魔法のように思えた。 そんな不思議な能力を持つ彼女と関わったことで、僕の人生は変わった。 色褪せてぼやけていた人生に鮮やかな色が加わった気がしたんだ。 それが良いことなのか、悪いことなのか、今の時点ではわからない。 だけど、僕は彼女と出会えたことに感謝している。 彼女は僕にとって『ショーシャンクの空に』のアンディーのような存在なのかもしれない。 忘れていた希望を思い出させてくれたのだから。 一話『ショーシャンクの空に』END
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