第二話『プリティ・ウーマン』

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腕時計で時間を確認した僕は、白いスクリーンの前で深呼吸をした。 座席には八人のお客様が座っている。 三十代と五十代の常連の女性、二十代のカップルが二組、三十代の男性が二人か。もう少し増えて欲しいけど。 もう一度、腕時計を見て、姿勢を正す。 「ほ、本日は『名画座パラディーゾ』にご来場いただき、誠にありがとうございます。まもなく、予告編に続いて…………『プリティ・ウーマン』の上映となります。携帯電話、スマートフォンなどお持ちの方は電源をお切りいただくか、音の出ないように設定していただけるよう…………お願いいたします」 そう言って、深く頭を下げる。 十数秒後、時間設定していたデジタル映写機が動きだし、スクリーンに映像を映す。 その映像を確認しながら、僕はふっと息を吐き出す。 千映さんみたいに上手く喋れないな。 僕の声は魅力的じゃないし、外見も暗いって思われているだろう。 僕は音を立てないようにして試写室のドアを開けた。
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