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 送信ボタンを押して、奏多は体から力を抜いた。  長い間頭と耳を覆っていたヘッドホンを外して首にかける。ずっと圧迫されていてズキズキと鈍痛を訴えてくる頭部を、眼鏡を外して軽く揉み椅子から足を下ろした。  椅子の上で体育座りのような姿勢で作業をしていたせいで縮こまっていた体を、徐々に伸ばしていく。バキバキ音がするのは、長年の運動不足によるものだ。  昔は平気だったのに。  どうにか解消法はないものか。  マッサージに自分から行くのはなし。出張サービスは信用がおけないので使いたくない。――となると、マッサージチェアの購入を考えてもいいかもしれない。  つらつらとそんなことを考えながら、ミキサーと打ち込み用の電子キーボードの電源を切って、首を鳴らしながら立ち上がった。 「……コンビニいこ」  確か、今冷蔵庫に食糧はゼロのはずだ。ここしばらく佐智も来ていないし、最後に残っていた菓子パンは朝に食べた。  床でぐしゃぐしゃに潰れているダウンを拾い上げて、気持ち程度に埃を払って羽織り、そういえば、とベッドの上の携帯を取り上げる。  佐智から連絡用にと与えられたのは、二つ折りの化石のような代物だった。電話帳の中身は佐智しか登録されていないし、電話以外の機能はほとんどが容量の無駄レベルでの使用頻度なので、スマートフォンに変える気はない。  壊れたら考えてもいいのだが、壊れる様子もなく、メーカー各社が二つ折りのものを造り続けているうちは、きっとこの形のものから移動はしないだろう。  年がら年中繋ぎっぱなしの充電コードを取り外したら、着信履歴から佐智を呼び出した。  そもそも、六ページほど保存される履歴も、たまに代金引換でしか注文できない商品を持ってきた宅配業者の携帯番号が割り込んでくるくらいで、殆ど全て佐智の名前しかない。  呼び出した佐智の番号にかけつつ、ダウンのジッパーをしめる。一階のテナントのコンビニに用があるだけなので、マフラーはしない。
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