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 しかし冷え切った玄関に長時間放置されていたそれは冷たくないはずもなく、奏多は冷たさに小さく呻いて、体温が靴に移るのを待った。  ―――どうかしたか? 「いや、靴が冷たかっただけ」  ―――でかけ…、あぁ、コンビニか。またお前何も食べてないな? 「朝に食べた」  ―――どうせ菓子パンだけだろう? またすぐ風邪引くぞ 「インフルエンザにかからなきゃいいよ」  風邪だったらベッドで横になっていればなんとかなるが、インフルエンザだとかならず医者に行かなければいけない。それは嫌だ。  じんわりと靴が温まってきてから、玄関の重い扉を開けた。途端にふきこんでくる外の冷気に一瞬ひるむ。部屋に戻ろうか迷い、しかし素直な胃が空腹を訴えてよじれたので、肩を竦めて外界に足を踏み出した。  ―――風邪にもならないほうがいいだろ? まったく……、暖かくして出てるか? 「適当に」  ―――喉だけは壊すなよ 「気管支炎併発しなきゃ声は出る」  後ろでに扉を閉めると自動的に鍵が閉まった。このマンションは、無駄にセキュリティがいいといつも感心してしまう。  玄関には、二十四時間コンシェルジュが在中しているし、エレベーターを乗るにしても、行先は自分の住んでいる階しか選べない。しかも動かすためにはエレベーターに非接触のキーで認証しなければいけない面倒くささである。  上手くやれば人と鉢合わせしないでよいのだが、奏多は見知らぬ人間と狭い箱の密室に置かれる状況が好きではないので、エレベーターは極力使わないようにしていた。  部屋が四階という、かろうじて階段での上り下りに抵抗感が沸かない階にあってよかった。それより上の階だったならば、本格的に部屋から一歩も出ない自分が想像できる。  ずりずり、共用の外廊下に、すり足気味の奏多の足音が響く。 「それより、確認終わった?」  終わったならもう切ってしまいたい。携帯を持っている手がかじかんで仕方ないのだ。
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