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 きちんと佐智がそのことを酌んでくれているのがありがたかった。だから、佐智の仕事を今でも受け続けていられる。  ―――マスタリング終わったらまた持って行くよ 「もう録ったの」  ―――いや、レコーディングは今週末。あ、来週にはまた様子見に行くから、せめて掃除はしとけよ 「……気が向いたらね」  エントランスに続く一階の扉まで辿りついた。そのまま外に出られればいいのに、と常々思うのだが、外に繋がる避難用の非常階段は管理者のみが開けられる鍵で施錠されていて、通常時の住居者には使えないのだ。 「もうコンビニつくから、切るよ」  ―――ん。早く寝るんだぞ 「子供かよ……」  おやすみ、と言い合って、通話は切れた。  携帯を片手で畳んでダウンのポケットに突っ込みながら、エントランスを横切っていく。入口近くのカウンターからコンシェルジュが頭を下げているのを横目に、奏多はマンションを出た。  駅から離れた住宅街の奥地にあるこのマンションの周りは、明かりも少なく静まり返っている。そんな中、テナントとして入っている全国チェーンのコンビニの明かりだけが、強すぎる光を放って存在感を示していた。  音楽と共に開く自動ドアと、もはや顔なじみとなっている深夜勤務の青年のやる気のない「いらっしゃいませ」の声に迎えられて、奏多は暖かい店内にほっと一息ついた。
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