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 向かうは、廃棄寸前の数の少なくなっている弁当コーナーと、パンの棚だ。  ぐぅ、と鳴る胃を擦りつつ、奏多の他には二人くらいしかいない店内を歩き、店内に流れている音楽に耳を向ける。そして、思わず顔をしかめた。  かかっている曲は、先ほど奏多が佐智と喋っていた件の歌手の、よりにもよって奏多が聴いたと話題に出した歌だ。  佐智との会話での気まずさがよみがえってきて、いつも以上に早足になってしまった。磨きの足りない床とクロックスもどきの、濁りの混じった摩擦音が重なる。  早く店から出よう。  むずむずとする気持ちを持て余しながら、毎回買っている中華丼をさっと手に取った。最近野菜の高騰を受けてか、量が少なくなったのが不満だ。  次にコーナーを曲がって、パンの棚へ。  棚の前に背の高い男が一人いた。しかも、惣菜パンのところではなく、奏多の目当てのものがある菓子パンのところだ。  俯きながら、そそくさと横に立ってラスト一つになったジャムとクリームのパンに手を伸ばし――その手が、隣の男の手とぶつかった。  びくりとして、思わず顔を上げる。同じように驚きの色を乗せた瞳とばっちり目が合って、奏多は固まった。  整った顔の男だった。短めの黒髪は、今時珍しい何にも染まっていない黒。かけている眼鏡は、細い黒のフレーム。瞳も濃茶色のはっきりとした顔にはあまり似合っていない。  男は、呆けたように奏多の顔をぽけっと見つめてから、慌てて手を引っ込めた。 「わ、すみません」  薄い唇から漏れ出た謝罪に、奏多はどきり、と、心臓をわずかに跳ねさせる。
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