2

10/14
前へ
/210ページ
次へ
 それとも、よほど奏多が食い意地はっていると見られたか。どんな風に見られようが構わないのだが、まともそうな人間に爽やかな対応をされると、微妙に居心地の悪さを感じてしまう。慣れないせいだ。なんたって、奏多の一番近くにいるのは佐智である。 「ありがとう、ございます」 「いいえ。今度見つけたら、その時に食べてみるから」 「はぁ」  このコンビニチェーンしか置いていないと助言しようか迷って、やめた。譲るくらいだから、積極的に探しているわけではないのだろうし。  小さく頭を下げる。そして、レジに向かおうとして、 「あの」  もう一度声をかけられた。  体半分だけ振り向き、奏多は小首を傾げて男に視線を向けた。 「なんですか? ……、やっぱりパン」 「いや、パンはもういいです。そうじゃなくて」  男が何か言いかけた時、後ろからやってきたスーツの男性が男の腕を叩いた。 「周、そろそろ行くよ」  急かされて、男の眉が下がる。奏多を気にするようにちらりと目を向けながら、スーツの男性と向き合ったので、奏多も今度こそレジに向かった。  一体なんだったんだろう。よくわからない。  滑舌の悪い店員の青年にものを渡し、会計を済ませ、レンジで弁当を温めてもらっているさいに、奏多ははた、と気付いた。  佐智以外とあんな風に長く喋ったのは、かなり久しぶりだ。
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

390人が本棚に入れています
本棚に追加