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従兄弟のじとりとした呆れ目を背中に感じながら、奏多は慎重に右腕を綿のシャツに通した。落ち着いたはずの患部が、また熱を持って腫れだして医者に怒られたのを、佐智は何故だか知っているらしい。
「ほとんど動かないのに、悪化ねぇ」
「……それが、何」
「お前に限ってリハビリ頑張りすぎたとかそういうのないだろうし? なーんでだろうな? いやー不思議だわ。なんでだかアマネも慌ててたんだよな」
「うっ」
不思議だわ、なんて言いつつこれは全部知っている口調だ。
悪化させたことについて何か言われるのは別にかまわないのだが、その原因に言及されるのは正直言って勘弁してほしい。
奏多だって、まさかあの後、あんな拒否してごたごた言っておいて、流れと空気に飲みこまれて色々してしまうなんて予想外だったのだ。お互い途中からわけがわからなくなって、怪我のことを考慮せずにいた結果がこれで。
佐智には周とどういう関係で落ち着いたかなんて話していないのに、用があって今日呼んだら部屋に入ってくるなり「周の浮かれっぷりをなんとかしろ」と告げられて、頭を抱えてしまったのも仕方ないと思う。
絶対暫くこのネタでからかわれる。考えると溜息しかでなかった。
「髪だってずっと自分で切ってたのに、何をどうしたのかいきなり美容院紹介しろって。お前が。どういう風の吹き回しなんだか」
「紹介したくなかったらいいよ」
「別にそんなことは言ってない。そのぼさぼさ頭をようやく手入れする気になったのかと思うと、どっかの誰かに感謝したいくらいだ」
いっそのこと名前を出して直球で言ってほしい。回りくどい口調の節々に、楽しげな色を見つけて奏多は苦い顔をした。
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