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 残された奏多は、入り口から一歩も動けずに、俯いていた。  どのくらい経ったのか、急に鞄が奪われる。驚いて顔をあげると、教会の宗教画から抜け出したような幼い二人の少年の顔。 『君のベッドはこっち』  手首を掴まれて、扉から一番近いベッドに引っ張られた。奏多の鞄を持った一人が、無造作にベッドに鞄を投げ込む。古いベッドが、重みに鈍く軋んだ。 『シャワーはこっち』  今度は、奥の扉に手を引かれる。  靴も脱がないままでシャワールームのタイルに足を踏み入れさせられて、奏多は靴を脱がないのかと訴えた。しかし、咄嗟に出てきたのは日本語で、もちろん彼らには日本語など理解できない。 『シャワーの出し方はこう』  Dusche? 奏多が疑問に思う間もなく、勢いよくひねられたコックからシャワーが奏多に降り注いだ。  何をする。やめてくれ。必死に訴えても、少年たちは奏多を抑えてシャワーを浴びせ続ける。  気温が下がり始める八月下旬、流れてくる冷たい水に奏多の体温はどんどん奪われていく。  どうして、なぜ。助けて。誰か。  叫ぶたびに、水が口に入り込んで咽てしまう。  ――――た  誰か。誰か。  ――――なた!  苦しいよ。助けて。  一際大きく叫んだところで、急に苦しさから解放された。
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