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「濡れたままじゃどのみち気持ち悪いでしょ」
「乾くまで時間かかるのがなぁ。明日早いんだよ」
「じゃあ泊まっていけば」
佐智が腰かけているL字ソファは、佐智や奏多くらいの大きさであれば寝るのに十分なサイズがある。引っ張り出すのに時間はかかるけれど、一応客用布団も存在しているので、人を泊めるのに支障はない。
――居心地の良さは保障できないが。
奏多の差し出すジャージを睨みながら、佐智は低く唸った。
「ここの方が会社から近い。近い、が……、お前リビングいつ掃除した?」
「……掃除?」
「ああ、うん。ごめん。訊いたのが間違いだった」
言われて、最近掃除をしていないことに気付いた。目を細めて隅を注視すると、かすかに見えるほこりの塊。
さすがの奏多も、ほこりがあからさまにつもっている部屋で寝るのは嫌だ。気は進まないが、泊まると言うのであれば、リビングのクローゼットからフローリングモップを取り出そう。掃除機は、以前黒い家庭害虫を吸い取ってからこっち厳重に封印してあるので使えない。
「掃除は百歩譲っていいとして、替えの下着とかあるか?」
「新品はない。けど、前に佐智兄が置いてったやつが、どっかにあると思う」
「どっかって?」
「……どこか」
「――…買った方が早いな」
呆れたように佐智が大きく息を吐いた。ついで、ワイシャツを脱いでパーカーを羽織る。
従兄弟のラフな格好を見るのは久しぶりだ。ここ最近泊まっていくことはなかったし、佐智は普段着もきっちりしたものを好む。
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