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 待っているにしても、手持無沙汰に突っ立っているだけというのは、結構落ち着かない。  きょろりと周りを見渡して、普段は気にも留めない雑誌の棚の前に立った。電子書籍で漫画を買ったりはするが、めっきり紙の本を買わなくなったのでなんだか新鮮だ。  立ち読みで読みこまれた痕跡の見られる週刊誌のゾーンから徐々に視線を横にスライドさせていって、奏多は一つのファッション雑誌に目を止めた。  雑誌の表紙には背中を向けた女性の髪をかき上げて、首筋に唇を寄せている男の写真とキャッチが躍っている。  手に取って、まじまじと表紙に写っている男を見つめてから、思わず眉を寄せた。 「んん?」  ――似ている。最近度々会うあの青年と、そっくりだ。  どういうことだろう。疑問に思ってじっくりと眺めているうちに、しかし、表紙の男と青年の異なる点に気付いた。青年の瞳の色は確か濃茶だったはずだ。けれど、この表紙のモデルは金に近い薄い琥珀色。  だからきっと、似ているだけの別人だ。まさか、こんな雑誌の表紙を飾るレベルの人間が深夜に変装もしないでホイホイ歩いているわけがない。眼鏡を変装としているならば、せめてマスクか帽子くらいは被って顔を隠すべきだ。  けれど、奏多は、この瞳の色を知っている。あの青年ではなく、違うどこかで見た色だ。人の顔を覚えようとしない奏多でも、光の反射によって変化する虹彩が綺麗だと感心した記憶がある。  どこでだったのか。  周囲を忘れて考え込んでいた時、突如耳に飛び込んできたガラスを叩く音が聞こえて、飛びあがりそうになった。  跳ねるようにして雑誌から音の方向に顔を上げた奏多は、ガラス越し、深夜の住宅街で手をひらひらと振りながら、自身に笑いかけている――たった今表紙のモデルの青年に似てると思っていた――男に呆気にとられた。
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