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 雑誌を持ちながら固まっている奏多の元へ、コンビニの入り口を通って男がやってくる。今日は、細身の青いスクエアタイプの眼鏡に黒のマフラーをしていた。眼鏡を一体何種類持っているのだろう。レンズかフレームが割れるまで一つの眼鏡を使い続ける奏多には、三つ持っているだけでもすごいことだ。 「こんばんは」  寒い外から暖かい店内に入ってきたためか、頬を蒸気させながら男が奏多の横に並んだ。今日も、奏多の好きな声の色。 「こ、こんばんは」  動揺が収まらず、まだばくばくと音を立てる心臓をなんとか押さえつけながら、挨拶を返した。驚きすぎて挙動不審な奏多を、男は不思議そうに見下ろす。 「大丈夫? どうかした?」 「いや、なんでもない、です」  こっそり、あくまでもさりげなくを装って雑誌を棚に戻したつもりだったのに、カゴも持たずに立ち読みをしていた奏多を変だと思ったのだろうか。男は、奏多の戻した雑誌に興味津々といった面持ちで手を伸ばした。 「買い物しないで立ち読みですか? なんかそういうイメージないから珍しいかも。何読んでたんです?」 「そんな大したものじゃ…」  どうしてだか男にはこの表紙を見せたくなくて、奏多はとめようとした。だが、そんな奏多の些細な努力は無駄になった。  あっさりと男は雑誌を引き抜く。表紙に視線をやって、わずかに目を瞠った。 「あー…、その……、なんていうか……、に、似てますね」  無言で表紙を凝視する男を、奏多はぎこちなくうかがい見た。落ち着かずに、片足を無意味に浮かせては下ろす。
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