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 おもむろに眼鏡を外しだす。 「あんまりにも可愛いこと言うから、特別。ね」  内緒話のように囁かれた声は、澄んだ男のそれを熱を持たせてかすませる。  眼鏡という障害物の無くなった左の濃茶の瞳に指をよせて、男が一瞬俯いた。すぐに離れた長い人差し指の上には、色のついたコンタクト。  そして、顔を上げて笑む男に、奏多は絶句した。  男のコンタクトを外した左の瞳は――薄い榛色が光を反射して、ところどころ金に染まっていた。男が持つ、雑誌の表紙を飾るモデルの瞳そのままで。  同時に、奏多の頭の中で歌が響く。売れ線を狙った無個性のメロディに、時たま半音上がる癖のある、ハイトーンボイス。 「あっ……」  見た事あるはずだ。むしろ、自分の記憶力の曖昧さに我ながらダメさを実感してしまう。 「おい奏多、おでんの具何たべ――…アマネ?」 「あれ、大月さんだ」  奏多を呼びに来た佐智が、男を見て眉を上げた。  男は現れた佐智の名前をびっくりしたように呼んで、じわじわと顔を明るくさせながら奏多の肩を掴んだ。 「じゃあ、やっぱり! そうだったんだ!」  驚愕のあまり事態についていけない奏多にずいと顔を寄せ、男は満面の笑みで嬉しそうにはしゃぎ始めて、 「貴方が、カナなんですね」  奏多の仕事名義の名前を、はずんだ声で口にした。
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