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口の中でごにょごにょと言い訳じみる。
佐智は、カップの水を切って、袋から出してさえいなかった食器拭き用のタオルで表面を拭いた。新品のタオルにありがちな吸水性の低さからか、うまく拭けていない。
なんとか客に出しても不味くないレベルまで復活したカップに、奏多はフィルターをかけた。ケトルがぼこぼこと音を出し始めたので、お湯ももうそろそろ出来上がるだろう。
「それにしたって、なんで俺の家なの」
「じゃあ他にどこ行けって?」
「あそこで別れてればよかった」
「あのはしゃぎようのアマネがお前を簡単に解放してくれたか?」
「う、……」
言葉に詰まって、奏多はゆるりと首を振った。場所を移そうと奏多の家に佐智が招いたとき、カナの家に行ってもいいの? とにこにこしていたので、すぐにさようならとはできていなかったと思う。
カチ、と、ケトルのスイッチが切れた。お湯が沸いた証だ。
洗ったカップと、佐智があらかじめ出しておいた佐智専用のマグに、ケトルからお湯を注いだ。ふんわり、コーヒーの香りが漂ってくる。奏多はコーヒーが飲めないので、飲むのはいつものお茶だ。
コーヒーを淹れたカップたちは、佐智がキッチンから運びだした。匂いと足音に顔を向けてきたアマネは佐智に頭を下げながら受け取る。
「すみません、大月さん」
「インスタントで悪いな」
「いいえ、わざわざ用意してもらって、ありがとうございます」
奏多にもにこりと笑いながら頭を下げてきたので、曖昧に頷いてそろりと視線を外した。眼鏡とコンタクトが外された目元に慣れない。
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