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青いフレームのスクエア眼鏡は、伊達眼鏡だったのだろう。テーブルに畳まれて置かれ、濃茶だと思っていた瞳は本来の色に戻っていた。
――とても綺麗な琥珀色。
妙に眼差しが甘く感じられるのは、光を浴びた部分がはちみつに似ているからだろうか。
ソファはL字になっていて、長いほうにアマネが座っている。そして、少し離れた短い側に佐智が腰かけた。短い側はいくら大きいソファと言っても、人一人分の座れるスペースしかない。
残されたのは、アマネの隣か、床。もちろん、隣になど座れないので、実質一択だ。
家主だというのに、酷い追いやられようである。
不満を覚えながらも、奏多は床に膝を抱えて座った。帰ってきてすぐに急いでフローリングモップをかけたので、今の床はある程度綺麗だ。
ソファに合わせた高さのテーブルが少し高いのが気になるくらいで、机とソファの下にはカーペットも引いているし、床に座るのはそんなに不快ではない。
しかし、床に腰掛けた奏多に、慌てたのはアマネだ。
「わ、ごめん、カナ……! 床でいいの?」
「よくな」
「いいんだよ。お客は気にしないで大丈夫」
奏多の言葉を遮って返事をした佐智を、奏多は目を細めて見やった。
佐智は気にもせず、インスタントコーヒーに口をつけて、思ったよりも熱かったのか少し飲んですぐにマグを置いた。いい気味だ。
「ホントにいいの、カナ」
「別にいいです」
むしろ、カナと呼ばれることの方が気になった。
コンビニでもそうだったのだが、愛称のような耳慣れない仕事名義を連呼されると背中がむずむずとする。この名義は仕事を始める時に佐智が勝手につけたものなので、それからある程度の年数が経ったとは言え、未だに奏多自身には馴染んでいないのだ。
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