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 ――本当に、失礼だ。  童顔なわけでは決してない。むしろ十代の頃は大人っぽいと言われて、年齢を上に見られることの方が多かった。しかし、どういうわけか、二十歳を超えた頃からまったく顔が変わらなくなり、気付けば実年齢よりも下に見られることが増えた。  佐智も三十代前半には見えない顔のつくりなので、血なのかもしれない。 「サチ兄だって年齢間違えられるくせに」 「お前は言動も幼いのが原因だろ」  酷い言いぐさに、足を蹴るために伸ばしたのだが、お見通しだったのかひょいと避けられてしまった。逆に咎めるように叩かれる。 「こら、やめなさい」  届かなかった足をすごすごと引き寄せる。すると、笑いを耐えるために顔を歪ませたアマネと目が合って、奏多は恥ずかしさに顔を伏せた。  あとで絶対に佐智は殴る。  決意しながら、話題を変えようと考えを巡らせた。 「そ、そういえば、どうしてアマネ? この前違う名前で呼ばれてなかったですか」  友達とかいうスーツの男に呼ばれていたのは、もっと違う名前だった。一般にもありそうな、普通のやつだ。  あからさまに話題を逸らす奏多に、それ以上アマネは突っ込んでこずに答えてくれた。 「あぁ、アマネって芸名なんだ。本名は酒折周。まわりって書いてシュウなんだけど、それの他の読み方がアマネらしくて、そっちの方がユニセックスでかっこいいって事務所の社長がね」 「へぇ」  ならば、あの青年はアマネ――周を本名で呼んでいたのか。仕事仲間と言っていたから、事務所の関係の人間なのだろう。外で芸名を呼ぶよりかは、遙かに正体がバレなくてよい。 「アマネじゃなくて周って呼ぶ?」  うかがってくる声は、瞳と同じようにとろりと耳に響いてくる。どうしてそんな甘い声だすのか、若干うろたえそうになった。 「酒折でいい」 「えー、遠慮しなくていいよ」 「酒折!」 「残念。でも、カナは結構そのまんまだよね。かなたってどう書くの?」  まったく残念そうには見えないが、気にしないことにした。
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