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驚くと同時に長年の疑問が腑に落ちていく。無駄に厳重なセキュリティは、そのためだったのか。
「じゃあ、あのスーツの、酒折の友達もサチ兄のとこの社員?」
コンビニのものにしては比較的ふわふわとしているはんぺんを割りながら、周を見上げる。この前のやり取りをふと思い出しての質問だったのだが、何故か周はぎくりと顔をこわばらせた。
「あー、そのことなんだけど」
ぎこちなく表情を崩して、まだ湯気のたつコーヒーを飲む。
「あれ、嘘なんだよね」
「嘘?」
「うん。あれ、俺のマネージャーの甲斐さんって言うんだけど、ここに住んでるわけじゃないんだ」
ごめんね。そう謝られる。どうして嘘をつかれたのかわからずに眉をひそめる。思い返してみれば、あの時の挙動不審な喋りにも納得がいくが、わざわざごまかす必要があっただろうか。
「ここに住んでるの、ほんとは俺なんだ。ちょっと前のマンションでごたごたがあって、最近越してきたんだけど、あの日は下見で」
「下見って、夜中にできるの」
「それは……特別に許可もらったっていうか」
「忙しくて夜中にしか時間取れないっていうから、俺が口きいたんだよ」
佐智が足を組みながら、歯切れの悪い周の補足をした。
「ふーん」
トラブルがあって越してきたのなら、それぐらいの優遇はきかせてもおかしくない。特に周は芸能人で、あまり表沙汰にしたくない事情があるのだろう。
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