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 それ以上追及しない奏多に、周があからさまにほっとした。 「そういえば、プロデューサーは、よくカナの家に来るんですか?」 「ん? んー、まぁ、仕事があるときは様子見がてら。かな。今日もこの前録った君の完パケCD持ってきたんだよ」 「カナが仮歌やってくれたやつできたんだ! 俺まだ完パケ受け取ってないんですよね…」 「数日中には事務所の方に行くと思うけど、見るか?」 「見たいです」  下のコンビニの餅巾着は、餅のほかに野菜も一緒に入っているので触感が好きだ。溶けかけている餅を伸ばしながら噛み切ると、佐智に名前を呼ばれた。テーブルの足元に置いてある佐智の鞄を取れと言う事らしい。  自分で取りなよ、と、餅巾着を咀嚼しながら小さく呟きつつ、鞄を渡す。足で引き寄せるのは、さすがに我慢した。 「はい。奏多も」  フィルムに包まれた、出来立てほやほやのCDを一枚ずつそれぞれに手渡される。JANコードの部分に『SAMPLE』のシールが貼ってある、いつもの見本品だ。  ジャケットは、もちろん目の前に座っている男なのだが、コンビニで見たファッション誌の表紙同様まったく雰囲気が違う。 「どう、カナ。似てる?」  その雰囲気が違うジャケットを、周が顔の横に掲げた。 「似てるも何も、同じじゃん」  気付かなかったのをからかっているらしい。  そっけなく返すと、えー、と、声を上げられた。 「ねぇ、カナ、アルバムも仮歌やってくれるんだよね?」  そんな話だったか。CDをテーブルに置いて、最後の具の一つのたまごに箸を突き刺し、かぶりついた。黄身がほろほろと崩れて、しょっぱい汁に甘さを残して溶ける。卵焼きが今日は売り切れていたのが残念だ。
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