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「サチ兄が仕事入れてるなら、多分そう」 「この前話しただろ」 「実際やらないと一々覚えてられないよ」 「……受けてくれる?」  先ほどまでのふざけから一転、真面目な顔で伺われる。殊更ゆっくりたまごを咀嚼して、奏多は曖昧に頷いた。 「多分、やる、はず」 「他に何か聞いてる?」 「他?」  編曲もミキシングも、おそらく言われていないはずだ。  そもそも、仮歌と他の作業をいっしょくたに依頼されることはほとんどない。編曲ついでに歌入れをしろ、と歌詞すらないメロディだけのデータを渡されることはあるのだが、通常は全て個々の仕事だ。 「まだ奏多には言ってないよ」 「何かあるの」  シンガーソングライターではない周が気にする奏多の仕事とはなんだろう。  アルバムまでまだ日にちが空いているとは言え、佐智が奏多に一緒に告げていないのが、奏多には気になった。  奏多に簡単には言えない仕事。それは、奏多に取って絶対にいいことではない。 「カナに、もう一個お願いしたい」  周がソファから腰をあげて、改まったように奏多の隣に膝をついた。身じろいて距離を取ろうとすると、その分周も移動する。  お願いなど聞きたくない。ろくでもないに決まっている。  けれど、佐智と周の視線に晒され、逃げることができなかった。 「仮歌入れる他に、何しろって」  軽くなったおでんの器を、テーブルの上に置く。 「アルバムの中に、俺が作詞と作曲やらせてもらえるのが一曲あるんだ」 「……編曲やれって?」  そうだったらいいと望みも込めたのは、あっさりと首を振って否定された。  編曲だったら、佐智がもったいぶらないのは、奏多も知っている。
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