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目ざとい従兄弟も気づいたらしく、一人分のスペースをようやく確保し、ベッドのふちに腰掛けながら、肩を落とす。
「これだから引きこもりは……」
「別に、外に出なくても」
「困らないって? 不健康だぞ。たまには歩け。人と会え」
「…――何しに来たの」
説教や片づけだけをしに来るほど、佐智は暇ではないはずだ。
抱えた膝に鼻までを埋めて、もごもごと問う。自分の生暖かい息が擦り切れたところから直に感じられて、今日にでも新しいジャージを買おうと奏多は決めた。
某大手通販サイトは、引きこもり生活を送る奏多に取って最大の味方だ。
「頼まれた仕事、まだ終わったって連絡してないけど」
「今やってたやつか。それはまだ大丈夫」
鞄と一緒にベッドに置いていたコンビニの袋から、奏多がよく食べている菓子パンを取り出して、佐智が投げてきた。
合わせて手を差し出すと、コントロールよく奏多の手に収まる。
そういえば、今日はまだ何も食べていない。
思い出した途端、きゅうと動く胃に従い、もたもたと袋をあけて口に運んだ。この菓子パンは、生地のパサつき、甘すぎるホイップクリームとイチゴジャムのジャンクさが好きだ。
奏多の両手を合わせたより一回り大きいジャムパンを、口いっぱいに頬張った。
ああ、おいしい。
「あっまそ……」
「飲み物はないの」
眉を下げて味わう奏多を胡乱気に見やる佐智が無言で転がしてきたのは、冷蔵庫に大量にストックしているメーカーの緑茶。
片足を下ろして、キャップを指で挟み持ち上げると、足先に伝わってくる温度はぬるかった。
冷蔵庫から出してくればいいのに、わざわざこれもシタのコンビニで買ってきたらしい。
さすがに封は足では開けられなくて、口でパンを挟みながら手で開けた。
「無駄だとは思うが一応言っとくぞ」
「外じゃやるな?」
「そうだ」
「やんないよ」
そもそも外に出ないのに、その忠告は無意味だ。
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