雨夜の月

１．

　しかし、どうしたことだろう。今朝は俺用に作ったと思われる朝めしの残りも見当たらない。

　「・・・母ちゃんたち出かけるって言ってたっけか？」

　俺だけ置いてけぼりで両親と妹が何処かへ出かける、ってのもまれにあるし、俺が適当に話を聞き流してそれを認識してないってのもままある。

　最近は男でも全く料理ができないとダメって言う時代だから、俺もたまには自分で目玉焼きをつくったりするのだが、今日はそこまで切迫した空腹を感じなかったので、――昨晩そんなに飲んだ記憶はないのだが、若干気怠さを感じる。二日酔いとはちょっと違う気もするが、頭がすっきりせず――、何も食べずに自室へ戻った。

　そういえば今日は彼女と約束してたんだったな、ということを思い出した。
　まだまだ春には程遠い二月の中旬になんで水族館なんかに行きたがるのかは謎だが、品川の方の水族館へ行く約束をしていた。

　彼女は俺と違って一人暮らしだから、大抵は迎えに行く。もちろん車なんて持ってないが、俺が迎えに行きたいんだから迎えに行くんだ。問題はないだろ？

　いつものように財布とスマホだけ持って、彼女の家へ向かおうと自宅の門を出ると、隣の家のあの犬がやたらと俺に向かって吠えている。
　まったく、時間通りに起こしてくれなかったくせに――目覚ましをかけてばいいだけなんだが――、いまになって何を吠えてるんだ？