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【透明】 [名・形動] 1 ・すきとおって向こうがよく見えること。また、そのさま。「―なガラス」 ・すきとおって、にごりのないこと。また、そのさま。「―な音」「―な空」 2 物体が光をよく通すこと。光が物質中を通過するとき、吸収される度合いが小さいこと。 [派生]とうめいさ[名] 引用:デジタル大辞泉 ――俗に、「透明病」と呼ばれる病気が世間に認識されたのが1985年。 それから、約30年。 まさか自分がソレに掛かるとは、全く予想だにしないことだった。 とは言え、前述した通りこの病気が発見されてからもう30年。 まだ治療法さえ確立されていないが、この病気の症状やら性質は大体研究され尽くされ、そろそろ停滞気味ですらある。 発症した直後こそ混乱し取り乱しもしたが、医者に病名を告げられ詳細を説明されれば、「ああなんだ」と言ってしまえるくらいの些末な問題だった。 透明病。 正式には「突発性細胞無色化症」。 身体の全ての細胞が色という色を失う、しかしただそれだけの病である。 世間ではこの病気を発症した人間を、「透明人間」と呼ぶ。 「とーめいさん、おはよ」 「だからヒガシナだって。おはよう」 私の名前は東名春。 名字はヒガシナであり、断じてトウメイではない。 だが透明病に掛かって以来、どうも大抵このあだ名を付けられてしまう。 代々続いた東名の名前を軽んじられているようで好きではない。 いや、代々続いた、とか言っても、別に我が家は家名大事な旧家でも由緒正しいなんたらでもなく、普通の一般家庭だが。 ただ私の気分的な問題である。 「そーだった、ヒガシナさん。それでさ、今日のレポートやった?推敲しあわない?」 「レポートは当然やってるが、推敲しあうほどのレポートじゃないだろ」 「んー、じゃ、読みたいから読ませて」 「なんで」 「とーめいさんのレポートって切り口が斬新で面白いんだもん」 「ヒガシナだ。お前は鶏か」 歩きながら会話をして、見事に3歩で呼び方を戻した友人……友人?でいいんだろうか?よくわからない関係の同期生に、嘆息する。 変える気がないなら変える気がないで、私の言にイチイチ戻さなければいいのにと思う。 どうも遊ばれている気しかしない。
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