黒い波が来る

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 ざく、ざく、と。サゼルメリク本陣の駐屯地を、空を仰ぐようにゆらゆらと歩いていた。  軍事大国カリーナエ。海の向こうから来る侵略者。 周りの国を食らい尽くして肥大していったその野心・自尊心・闘争心を、我々はもっと早くに警戒しておくべきだったらしい。  ざく、ざく、と踵を意識して踏み下ろす。  数刻前を想起した。  四国で同盟が組まれたその夜に、アインスは王の執務室に向かった。  かつかつと扉の前まで歩み寄り、静かにノックする。 「夜分に申し訳ございません。国家親衛隊隊長の位を賜っております、アインスと申します」  王の返答を聞いてから、扉を開き中に一歩踏み入れた。 「失礼致します」  深くこうべを垂れて臣下の礼をとってから、その場で直立する。 「カリーナエ戦の件でご指示を賜りたく参りました」  前口上もなく単刀直入に切り出した。  暇を持て余している時ならご機嫌麗しくうんちゃらとたらたらご挨拶申し上げても構わないのだが、今は時間を浪費したくないのだ。  カリーナエとか他所のお国はいざ知らず、サゼルメリク国王であらせられるアルシェロ陛下は温厚なお方だ。きっとたぶん許される。陛下も時間が惜しいはずだ。よね?  陛下はああ、と声を漏らしてからしばし黙考を始める。 「……そうだな、できるなら別動隊として本陣を支援してもらいたいものだが」 「かしこまりました。最良の結果を」  再び深く礼をとれば苦笑される。  いやん普通はこれでも砕けてるくらいの態度なんでございますよ陛下。私が特別堅苦しいわけではございませんからね。  胸中でおどけてもそれを表に出す度胸も見合ったアレもないので、とりあえず言葉の分くらいは頑張ろう。……もうちょっと小さいこと言っとけばよかった。なんかできる限り頑張りますけど期待はしないでくださいご容赦を的なことを失礼のないように申し上げる定型文急募誰か。
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