黒い波が来る

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 ここまで思い出して顎を上げたまま「あーーー」と呻く。  最良だって! ふざけんな人手不足だ過去の自分ころす。  右のテントから傷付いた兵士の呻き声が漏れ聞こえて、なんとはなしに口を閉ざした。  未来の自分の声を聞いた気分だ。  ぱん!  勢いよく両手を合わせて指を組む。ごつっと第一関節に額を打ち当てた。 「みなさん、どーか生きててね」  自分のような奴に適当に祈られたところで嬉しくもないだろうが。  ただの自己満足であり願掛けであり鼓舞なので許してほしい。  と、誰にともない言い訳をしていたら背後に気配が近付いてくる。  これは、 「行かれますか、隊長殿」 「行きます」  硬質な声で答えを返す。額から手を放して振り返った。 「本陣との連絡の際にお世話になるかと思いますが、よろしくお願い致しますね。乙音さん」  美しい白髪が戦場に揺れる。金の双眸は自分を痛いほど射貫いていることだろう。  その立派な体躯は自分などよりよほど隊長らしい迫力だ。  頼もしいことこの上ない。  ぺこりと頭を下げて踵を返し、音もなく一歩を踏み出した。
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