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そういえば、友達みたいなのの中の誰だったか、自分を庇って死んだ気がする。顔も名前も覚えていない。ブリッジダッシュしてきた奴だったっけ。なんて報われないんだ。クズだな。もう友達なんて作る資格ないぞ。
そう、友達なんて、
『あいしてる』
ともだち
『あいしてる』
ゆっくり両手で耳を覆った。
『あいしてる』
錆びて油の切れた機械みたいにぎこちなく背を丸める。
『あいしてる』
ずっと言葉が頭の中に飽和する。
『あいしてる』
手をつないだあの子の、笑顔が、
『あいしてる』
別にどうってことないはずだ。
証拠に、耳を塞ぐ両手は震えていない。
心臓も凍えてない。
表情もいつもと同じポーカーフェイス。
『あいしてる』
そう、どうでもいいこと。
世の中にはもっと悲惨な過去があるものだ。
自分の過去なんてちゃんちゃらおかしい三流小説だ。
『あいしてる』
愛は
絶対ではない。
痛いほど分かってる。
あれもこれも曖昧に逃げるように忘れていったのに、どうしてこの言葉だけ、あの笑顔だけ、この左手に残るぬくもりだけ、忘れられないのだろう。
『あいしてる』
俺はクズだな。
クズである。
クズってなんか凄そう。なんか、自分の過去もクズっぽい高笑いとかで笑い飛ばしそう。わはは。わはははは。
『いっしょう、――――――』
立派なクズだ。いつだって、俺が加害者。
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