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「さっき山に行ったら冬だというのに蕾をつけた桜を見つけたんだ。咲いたら絵に出来るんじゃないかと思って」
言われた言葉に今まで描いていた墨絵へ視線を落とし、そっと筆を下ろした。
立ちあがり右足を少し引きずるように歩く。
箪笥の上に置いてあった大きめの風呂敷を畳に広げて座った。
「単なる道楽ですから桜の美しさを写せるかわかりませんが…ありがとうございます。ここへ」
柔らかい笑みで見上げて促す。
和之が一瞬はっとした顔をしたが、すぐに視線をそらし風呂敷へと桜の枝を置いた。
「これは不思議ですね。季節外れの蕾か」
枝に蕾が並んでいる。
落としてしまわぬよう優しく触れる合間も指先から横顔に視線を感じていた。
「…継ぐ気はないのか?」
唐突そうでいて、随分長いこと晴れぬ霧をお互い抱えていた。
蕾から離した指を視線と共に己の足へ滑らす。
「僕に選択肢はありません。生まれた時から決まってましたし、そのために貴方も此処へ連れてこられた」
生まれつき不自由な右足。
親ですら疎み世間からの差別を恐れて隠す時代。
心に隠した黒い波がじわりと溢れて滲みだす。
義兄は大人たちの都合に使われたとわかっていても…
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