淡恋

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「誰もが化け物を見たかのように目を背ける。貴方しか僕に話しかける人はいない。だから、逃げるなんて許さない…」 首を必死に掴み、頼りない表情をする様は儚く美しい。 涙を落とす姿さえ綺麗なのだろうなと目を細めた。 「どんな顔と姿で、何を言ってるか自覚してるか?」 色を含んだ視線に気づいてなかった訳ではあるまい。 遊ぶかのように気づかぬふりで、あしらっていたのではないのか。 「お前の言う皆とやらは自分にやましさを感じて目を背けただけだ。秘めた花への…」 「からかうのは止めて下さい」 今度は眦を染めて眉を上げる。 普段は牡丹のようだが、怒った姿は彼岸花のようだと笑った。 「いずれ世代は移り行く。義父母も年老いた今、世間体より将来を考える余裕しかない。後で話をしてくるよ」 「義兄さん…」 絶望したかのように真っ青になり離れようとした手首を捕まえた。 「お前は頭が切れる男だ。家業は問題なく継げるだろう。思っていたより鈍くて驚いたが…」 「もう、いいです」 いまだ腹の上で振りほどけぬ手首を諦めたのか彼方の方向へ顔を背け、そっけない声が返る。 「手元に落ちてきた花を手離すつもりはない」 低く囁くような声に振り向けば触れる温もりと鼓動を誘う香り。 目眩がした。 何が起きたのか… 気づくと義兄の姿は無かった。 霞む頭で唇にあてた指先は熱くなっていた。 ずっと。 わかっていながら、わからぬふり。 伝わる視線を感じていながら自信も実感も湧かず信じきれなかった。 夕暮れから夜に変わって窓の硝子から満月が見える。 「僕と同じ…待ちきれなかったか」 消えぬ熱を身体中に感じたまま薄紅色が覗く蕾を見つめる。 月明かりの中、桜の枝を抱き寄せ口づけた。
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