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「君が和之くんか。なるほど…強い目をしている。剣道をやっていたそうだな。体も丈夫そうだ」
道端で見知らぬ人から声をかけられた。
上質と解る着物姿の中年男性が出会いがしら値踏みしてくる言動に不愉快を隠さなかった。
「誰だか知らないけど、これから頼まれた仕事に行くんだ。こちとら見世物じゃねぇ。子供だろうが働かなきゃ食っていけないんだ」
言いたいことだけ伝えてさっさと歩き出す。
背後から豪快な笑い声が聞こえた。
「はっはっはっ…!これはいい」
足を止めて訝しい相手をもう一度振り返る。
「私は町で商店を営んでいる者だ。君に跡取りになってほしい」
「…何言ってんだ?」
世の中そんな甘いことがある訳ない。
大方うまいように騙して売り飛ばす人買いみたいな奴か。
「誰でもいい訳ではない。君のお父さんとは知り合いだったし、君は剣道が強いと町で話を聞いていた。こんな早く夫婦共に亡くなってしまうとは思わなかったが…」
嫌なおっさんにも良心があるのか語尾は少し曇った表情に見えた。
「仕事が終わってからでいい。まず見に来てくれないか?家や店の者には言っておく」
店の名前と場所を告げられ案外あっさりと行ってしまった。
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