パーカのフードを被ってミニマルテクノを流す夜

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彼はわたしよりひとまわり上だ。その元彼女ということだから、まぁ年齢的には40は過ぎているのだろう。 ふーん、そっかそっか、そうだよね。その人の気持ちわかる~、しょうがないね! なんてわけにはいかない。 『取り敢えず、わかった』 言葉を全て飲み込んで、これだけやっと言うことができた。 『あたしに話しても解決することではないことはわかるよね?なんで話したの?先方は認知も要らないっていうのであれば黙ってればよかったんじゃないかな、それは。』 彼は握りこぶしを作ってリビングに立ち尽くしている。 ふいに椅子に座っている自分が、その椅子ごとフワリと宙に浮かぶような感覚に陥った。 普通、こういうときはどこかに沈み込むのじゃないのか。 『話さないと、いけないと思ったから!』 ぶっきらぼうに言うと寝室に向かっていってしまった。 話すことが誠実さだと思ってるのだろうか。 なにひとつ、解決もしない。 不安が、混乱が分裂しただけだ。 わたしはリビングテーブルのマックブックに向かい直し、明日の撮影スケジュールを作りはじめた。 フードを被って、イヤホンをしてi tuneからミニマルテクノを選んでかける。 シャットアウトしなければ。 明日も仕事だ、 今夜は徹夜で作業しなければ間に合わない。 重く重くべっとりと湿気が多い夜を、頼りないリビングで過ごした。
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