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「そうですよ。何かわかりますか」
「連れてきてくれたのかい」
「いえ、ただ着いてきただけです。何か思い出しましたか」
「ああ、思い出す。凄いよ。僕は轢かれたんだ。電車に」
「電車」
「そう。あの日はねぇ、20日続けて勤務して、ほぼほぼ泊りがけの仕事の最終日だったんだ。やっと家に帰れる。やっとって所でね、電車が来る前に倒れて、線路に倒れ込んだんだ。思い出した。その時だ。僕の中から何かが飛び出したのは。轢かれた拍子に僕は飛び出して、電車の中に居た。どこに行くべきかも分からなくて、アイ君に拾われたんだったね」
「じゃあ、私達も、死んでるんですか」
「かもしれない。ねぇアイ君。カキちゃん。僕はまだ見えるかい」
「いや、透けてるよ。すっげえ」
「そうか。もう終わりか。カキちゃんと桜が見れて良かったよ。君が娘みたいでねぇ、背格好も似てるじゃないか。カキちゃんが居るから、桜を見る勇気も出たんだよ。凄いなぁ。僕死んだんだ」
「本物の娘が後ろにいるじゃないですか。どっちが可愛いですか」
「勿論娘だよ。こんな親孝行な娘が居るかい。変だなぁ。もう終わりだ。アイ君。カキちゃんと仲良くするんだよ」
「無理だな」
「ね、無理です」
「そうかい。なぁ、天国って本当にあるもんなんだなぁ」
「頭の中にまで花が咲きましたか」
「そう。そうなんだよ。見えるんだ。咲いた花が一面にさ。凄いよ」
「そうですか。なら、今度は一緒に見に行きましょう」
「ああ。待っているよ」
ウエオは消えた。不思議だった。小屋に帰ればまだ笑っていそうだと思えるほどそこにはまだ彼の雰囲気が漂っている。
いつまでも黄昏ていたい気分の中、カキの頭をアイが掴み、小屋の方向を向ける。
「おい、行くぞ」
「やる気出ましたか」
「少しだけな」
「私も近そうです」
「何か思い出したのか」
「はい。少しだけ」
「そうか」
「付き合いますよ。私は最後でいいです。アイさんが消えた後で私も消えます」「子供は早く寝ろ」
二人はまた新たに探した。カキはアイの記憶も一緒に探した。
そんなある日に、情報を見つけることができた。それは山奥。アイとカキはそこに行く。そしてまた人知れず消えるだろう。
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