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緑がより鮮やかになり始めたようだ。
「残念」これは桜の木ではない。
海の当たりに行けば、確か並木道でもなかっただろうか。記憶を辿ればそんな記憶がなくもない。
スーツ姿の男はただの木の並木道を歩き、遠くに見える小屋を目指している。
古いが、あの中でいつも3人で生活をしていた。すると、小窓からちょろちょろと髪の毛が見える。あいつだ。彼はその正体を知っている。チャラそうに見えるが、実は小心者。その彼はちらちらと男の様子を伺っている。
男はふと思いついた。天気は晴れ。少し背を屈め、太陽の光を頭で反射させ小窓に届けた。
あの娘に一度同じことをしたことがある。その時は確か『ハゲが移ります』と言われたのを思い出す。そして彼の反応はない。引っ込んでしまった。
男は笑う。可愛い子供のように思えたからだ。
「ただいま」
男は中に入れば、あの彼は口を曲げまた「ハゲが移ります」そう言った。
「カキちゃんの真似かい」
すると彼は口をさらに曲げて聞いた。
「はいはい。お帰んなさい。何かあった」
もう春と言えど、まだ気温はそう高くない。それなのに彼はタンクトップに半ズボン。それなのに表情は変わらずハゲの男に対し曇った目を見せた。
「なにも。ただ」
「ただ」
「春だな」
違う。彼の求めていた答えとは大きく違ったが為に、彼は頭を抱える素振りを見せる。彼が求めていたのはずばり刺激だ。今の生活を変えるような大きな事であり、聞けば笑いがこみ上げてくるような
「そういうものだよ」
「違うじゃない。皆で桜見行きましょうよ。楽しいよ」
「あのねぇ、無精ひげ生やしたハゲと花見行って何が楽しいんだ。酒なし、女なし」
「花あり、笑顔あり。良いじゃない。ていうか女は居るでしょう」
「ど、こ、に。俺の言う女っていうのは、こうもっと性的で、スレンダーっていうのかね、そういうもんだよ」
「また怒られるからね。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」
男はまた、先ほどの彼が居た場所に座り外をじっと眺める。
待つのもまた仕事だ。
待っているのは『カキ』という女の子らしい。チャラい彼は少し苦手という女らしいが、離れて暮らしたいと思うほど嫌な女ではない。
彼らはここに来て早1年になろうとしている。その初めての春だ。
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