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事の発端で言えば、このチャラそうな彼が街中で蹲るハゲた男を連れてきたことから始まった。
何がどうしてこうなったかも分からない。
分かるのは、彼らは人には見えない存在になったという事だった。
最初はちゃんと情報を集め、忘れた事を思い出す努力もしている。
今の言う『カキ』はまさにそんな状況だ。
彼女はまだここに来て半年、見えない存在である彼らに見える存在になってしまったという理由から、連れてこられた。
名前を聞いても『覚えていない』住所も『覚えていない』
何も覚えていないらしい。それは彼らと同じ状況だったという。その中で分かるのは服装で察することのできる学生だという事だった。
彼らは当時、僅かな記憶を辿りながら、自分を取り戻そうとしていた時代があった。
名前は仮に五十音から順番にチャラい男は『アイ』ハゲは『ウエオ』女は『カキ』とした。
だがそれももう飽きた。疲れてしまったのだ。
彼女はきっとまだ諦めずに記憶を辿るだろう。それもまた良い。
そのカキは今、街中を歩いていた。
カフェに座る老人の背中に頭突きをかませば、通り抜けた。そして胸から顔を突き出して、老人の読む新聞を一緒に読む。
老人は、やはり臭い。
「何もないよね」
がっかりだ。といはいえ、情報がないのも当たり前だろうと思っていもいた。つまり藁に縋っていたのだ。
あれから半年。切ったばかりの髪は伸びず、爪も伸びない。それと同時に進歩もなかった。まるで世界が3人を忘れたかのように時間は流れている。
「帰ろうか」
どうせ彼らはもう帰っているのだろう。カキは思った。そしてそれは正しい。
街を出て、公園の近くの林の中の細い道。遠くにぼろい小屋が見えた。
「ああ」
間抜けな声はハゲが見えることだ。無様ま男がこちらを見ている。
それはカキを見るや引っ込んで、恐らくアイに事を伝えているのだろうと思われる。いつもの事だが、何よりそれが鬱陶しいのだ。
「二人とも、帰るの早すぎやしませんかね」
「僕は真面目だったよ。アイは早かったよね」
「だって出掛けてねぇもん」
呆れて物も言えたものではない。
「やる気ないんですか」
「どうしようもねえって」
「あるかもしれないから探すんじゃないですか。戻りたくないんですか。人間に」
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