十三番目の悪い魔女

2/14
前へ
/14ページ
次へ
 昔々、ある国の深い森の奥に、魔女の棲む小さな町があった。  その町で生まれた魔女は一年に十三人目まで、生まれながらに役割を持たされる。  一人目は緑の魔女。自然をつかさどり森を守る役目を持つ。一番人数の多い魔女。  二人目は水の魔女。植物を育て、命を生かす。三人目は光の魔女。木々が遮る森の中でも皆が太陽を浴びられるように魔法を使う魔女。  四人目は闇。穏やかな夜をもたらす。五人目は火、六人目は風の、七人目は地の魔女。八人目は音の魔女で、九人目は学の魔女。十番目は美を、十一番目は富をつかさどり、十二番目は善き魔女。みんな町を守る為の大事な役目がある。  それから十三番目は――悪い魔女。  十四番目以降に生まれた魔女は何でも好きな魔女になれる。ただちょっと生まれるのが早いか遅いかの違いなのに。なのにどうして私は生まれながらに悪を強いられるのだろう。ある年に生まれた十三番目の少女は思った。  特に決まった魔法を持たされず、自分の好きにしてよい。ただし悪い魔女であれ。生まれた瞬間からそう決まっている自分の運命に疑問を持たずにはいられなかった。  けれど魔女はそういうものと町では決まっていたから、誰に問いかけてもそうとしか返ってこなかった。  こんな役目は本当に必要なのだろうかと彼女は常々自分の行為に疑いを持ちながらも悪事を働いていた。  雨の降った後、小さな水溜りをほんのちょっと深くして人を転ばせてみたり、木の実を摘んでどれだけ入れてもカラになるカゴを編んでみたり。木の実以外は普通に使えるから案外気が付かれないと小さく笑う。  大それた事は出来ないから、小さなことからコツコツと。積み重ねていけば立派な悪い魔女になる。    だけど傍から見たらちょっとお茶目なくらいだろう。そう信じて育ってきた少女は、ある日絶望した。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加