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『僕なんていらない……消えたい。いなくなりたい』
どこかに悪い事に使えそうな人は居ないかな、と人々の心を読んでいるとちょうどいい声を聞いた。
その気持ちはよくわかるし、この人にしよう。
早速、と杖を声の主の少年に向けた時いや待てよと考え直した。
確かに結構悪い事をしなくちゃだけど人を消すってどうなんだろう、どこへ行くんだろう……無くなるんだ。何にも。
私も200年ぐらい前に思ったけど、でも本当に消えるのはちょっと怖いから止めたんだ。
あの子だってまさか本当に消えるなんて思ってもみない事だと思う。いきなり消されたら困るよね、恨むよね……消えたら恨めるのかわかんないけどさ。
それによくよく考えてみたら消えたいと思ってる人を消すのって悪い事じゃなくない?むしろいい事じゃない?願いを叶えてるんだから。
いい事して悪い事するんだったら……私もあんまり良心痛まないけど、でもこの場合やっぱりいい事になっちゃうと思うんだよね、いらないものを消すってのは。
だからやっぱりやめておこう。
そう思って唱える呪文を変更した。
彼の姿だけが消える魔法へと。
「うわっ?!」
聞こえてきたのは彼の着ている――いや着ていたはずのと同じ服を着た少年の叫び声。
今その少年に見えているのは、浮いている制服と靴とそして鞄。
当の魔法をかけられた本人は、その声に驚き辺りをキョロキョロ見回した。
自分の手を見下ろした彼は小さな悲鳴を上げて走り出す。そのまま自分の家へと滑り込む彼を少女は追いかけた。
「消えたいって思ってたでしょ?だから消さずに消してあげたのよ」
感謝する?しないでしょ?と少年に姿を見せた少女は尋ねた。
「……ちょっと意味が、頭がまだ追いついてないんだけど、とりあえず君、誰?」
「見てわかるでしょ?魔女よ」
『魔女?コスプレ?なんかのキャラか?』
少年の思考は少女に駄々漏れである。ムッとした彼女は少年をちょっと嫌いになった。その内なにか意地悪しようと決めた。
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