《第1章・オネエ協定?》

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とある夜…風呂上がりの舞が髪を乾かし終わる頃、かすかな物音がして恐る恐る脱衣場のドアを開けた。 … …… 気のせいかと思いリビングのソファーに座ろうとした時またチャイムが鳴った。時間は10時過ぎドアチェーンをしたまま少しだけ開け、訪問者の顔がわかると安心はしたが閉める彼女。 トントントン… 『開けてぇ~、協定を結んだ仲じゃないの~』 ドンドン…カチャカチャ…ドアを叩くドアノブをまわす、まったくこのオネエはっ! 『舞ま~いっ、舞ま~いっ』 あたしの名前をリズミカルに歌わないでっ! チェーンを外しドアを開けると迷彩柄の上下スエットの相川がアイスクリームの箱をぶらぶらと揺らした。『何っ?くれるの?』 『描写がわからなくてこの間のキスみたいに付き合ってくれると嬉しい~』 『お断りっ、帰ってよっ』『つれない舞ちゃ~ん、オネエ協定は結んだばかりよ』 『こいつ…』 舞はドアノブを持たない手をぐっと握りしめ、はぁぁとため息をつき相川を中に入れた。 『こいつ…の先は?』 『小説家でしょ、察してよ』 『こいつイケメンだわ、こいつステキ過ぎる』 『…こいつ自己中』 相川はあくまでものってこない舞をなんともいえない切なそうな顔で見てソファーに座る。 コンビニのレシートと携帯小説作家の文庫本2冊に目をやる彼は怪訝そうに舞を見上げた。 『コンビニ弁当とサラダだけじゃ栄養片寄るわ』 『仕事で毎日パソコンに向かってて夕食作る気になんない』 『あたしが作ってあげるわ、料理は好きだから食べに来たら良いわ』 『ヤダ』 『一言で済ませるのね…』『あなたと1対1で食べるなんて嫌…』 『嫌われたものね…』 『嫌ってなんか…河田さんともそういうシチュエーションにならないのに先にあなたとなんて…』 『また河田かよ…』 相川は両腕を頭の後ろで組みふてくされたように口角を下げた。
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