クロとシロ

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僕の足に飛び付く白い犬はマシュマロというが、呼びづらいのでマシュと呼んでたらしい。 忘れているのに、マシュだけは違和感がない。全身全霊で僕を慕ってくれるからしっくりとくる。 ドンッ!! 勢いに負けて思わずしりもち。 「っ、痛ぁ…」 ベロベロと、僕の顔中を舐めるマシュ。ああカワイイ!!キューキュー鼻を鳴らしながら、しっぽをフリ♪フリ♪フリ♪ 「マシュ、迎えに来てくれたとか?」 「ワホッ!」 「っははは!じゃ、帰ろっか?」 首輪にリードを収納できる便利な代物。マシュを、わしゃわしゃ撫でながら、ロックを外してリードを引っ張り出した。 自宅とは逆方向に歩き出すマシュに慌てた。 「おい、マシュ?逆だろ?」 聞き耳持たないマシュ。 グイグイ僕を引きずるように進むので、散歩しようと気分を変えて付き合うことにした。 現在心身共にリハビリ中。時間だけはたっぷりある。 「ハァ、ハァ、ハァ」 「規則正しいリズムだな」 軽快なマシュの足どり。通いなれた感じがする。もしかしたら、マシュの散歩コースかも。 思い出せない苛立ちと、覚えていない、やるせなさ。 以前は「全て失くなってしまえばいいのに」とか、「全てを投げ出してしまいたい」とか。マイナスな気持ちで現実逃避したかった時が、多々あったと思うんだ。 きっと22年間の人生で、忘れられない、じゃなくて、忘れたくないってことが、たくさんあったんだ。 暫く歩くと小さな公園に着いた。 「ワンッ!!!」 太陽の光が反射して見えない。眩しくて目を細めてしまう。 人影が「マシュ!」と呼んでから、「大樹!」と僕に手を振っている。 !!! デジャブ。 昔もこんな出来事があった。絶対初めてじゃない。思い出せそうで思い出せない。 もう少しで届きそうで手を伸ばすけど、あと少しで触れない、もどかしさ。 ………誰?僕の名を呼ぶのは? 僕の失われた記憶の大半を占める人かい?
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