11人が本棚に入れています
本棚に追加
僕の足に飛び付く白い犬はマシュマロというが、呼びづらいのでマシュと呼んでたらしい。
忘れているのに、マシュだけは違和感がない。全身全霊で僕を慕ってくれるからしっくりとくる。
ドンッ!!
勢いに負けて思わずしりもち。
「っ、痛ぁ…」
ベロベロと、僕の顔中を舐めるマシュ。ああカワイイ!!キューキュー鼻を鳴らしながら、しっぽをフリ♪フリ♪フリ♪
「マシュ、迎えに来てくれたとか?」
「ワホッ!」
「っははは!じゃ、帰ろっか?」
首輪にリードを収納できる便利な代物。マシュを、わしゃわしゃ撫でながら、ロックを外してリードを引っ張り出した。
自宅とは逆方向に歩き出すマシュに慌てた。
「おい、マシュ?逆だろ?」
聞き耳持たないマシュ。
グイグイ僕を引きずるように進むので、散歩しようと気分を変えて付き合うことにした。
現在心身共にリハビリ中。時間だけはたっぷりある。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「規則正しいリズムだな」
軽快なマシュの足どり。通いなれた感じがする。もしかしたら、マシュの散歩コースかも。
思い出せない苛立ちと、覚えていない、やるせなさ。
以前は「全て失くなってしまえばいいのに」とか、「全てを投げ出してしまいたい」とか。マイナスな気持ちで現実逃避したかった時が、多々あったと思うんだ。
きっと22年間の人生で、忘れられない、じゃなくて、忘れたくないってことが、たくさんあったんだ。
暫く歩くと小さな公園に着いた。
「ワンッ!!!」
太陽の光が反射して見えない。眩しくて目を細めてしまう。
人影が「マシュ!」と呼んでから、「大樹!」と僕に手を振っている。
!!!
デジャブ。
昔もこんな出来事があった。絶対初めてじゃない。思い出せそうで思い出せない。
もう少しで届きそうで手を伸ばすけど、あと少しで触れない、もどかしさ。
………誰?僕の名を呼ぶのは?
僕の失われた記憶の大半を占める人かい?
最初のコメントを投稿しよう!