クロとシロ

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近づいていく。 僕から人影に向かってゆく。 近づいている。 僕と同年代の男だとわかる。 スマホのアルバム登場率1位のヤツ。電話発着信履歴も、LINEのトーク率も、カレンダーの名前も、ぶっちぎり1位のヤツ。 近づいていく。 僕と彼の距離が縮んでいく。 近づいている。 僕のすべてだった男だとわかる。 「………ゆ、勇斗、だろ?」 「大樹。俺のこと覚えてないんだろ?」 慈愛を秘めた優しい眼差し。僕、知ってる。いつも見て欲しくて。ずっと見ていたくて。見上げていた僕の光。 「ああ。記憶はなくても記録は残ってたよ。ロックの解除番号はお前の誕生日。パスワードは全てクロとシロ(9 6 4 6)だった」 勇斗が微笑んだ。まるで、ひだまりみたい。 「そう。クロとシロ。黒髪でがっしり体型の俺と対称的で、色白で茶髪で線の細い大樹はセット扱い。周りからクロとシロって呼ばれてる。 っておい、大樹泣くなよ?」 込み上げてくる、あたたかな感情に戸惑っていたのは、勇斗の愛情が直に伝わってくるから。 「勇斗ぉ、早く会いたかった」 「俺も。早くこうしたかった」 !!! 細身の僕とマシュをまとめて抱きしめる勇斗に、マシュは、しっぽをフリ♪フリ♪フリ♪ ああ落ち着く。 ゆっくりと警戒心が溶けていく。じんわりと虚無感が充たされていく。 勇斗の元に戻ってこれた嬉しさに、身を委ねる僕は大胆かな? チラッと勇斗の表情を見ると、真っ赤になってた。僕がよくマシュにするように、わしゃわしゃと髪を乱した。 「このバカアホボケナス。退院してから着拒するわ、既読スルーするわ、メール返信しないわ、居留守使うわッ!!まだ俺、怒ってるんだからな!!」 ウソつき。怒ってないクセに。 誰よりも心配してくれたのも、悲しい思いをさせたのも、待っていてくれたのも、勇斗だって、わかってるんだよ?
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