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これ以上悲しむ顔を見たくなくて、無理に笑顔を作ってみせた。
「大樹…」
そんな翳る表情も見たくないから、巻き付いた腕を離そうとした。
「離したくない。」
「ごめん。勇斗のこと思い出せないんだ。勇斗には僕じゃない別の人が…」
!!!!!
ギャー!!おまっ、何してるー!?
内心叫んだ僕は間違ってない。まっ昼間の公園という公衆の場で、キスをしたんだから。
絡めた指を、触れる髪を、柔らかな唇を、カラダが覚えてる。
勇斗を愛しく思うことさえ忘れた自分が悔しいし、勇斗に悲しい思いをさせている自分が嫌になる。
ずっと、こうしていたい。
これからも勇斗に会いたい。
もっと、キスしていたい。
いつまでも勇斗の側にいたい。
けど……
「俺は黒岸勇斗25才。商社に務めてる。リーマン歴3年目。趣味はジムトレ。日課は恋人の手料理を食べることと、犬の散歩に付き合うこと。
無理して思い出さなくてもいい。これから二人の思い出を新たに作ろう?
白村大樹くん、俺と付き合ってくれ」
まっすぐな視線。絡み合う目。揺るがない瞳。両腕をスッと差し出して囁いた。
「おいで大樹。」
「うんッ」
頬に伝う涙をそっと受け止める勇斗。ギュッと抱きしめられたのもきっと、初めてじゃないんだろう。忘れているなんて、ああもったいない。
クロとシロ。
勇斗と大樹。
今はまだ思い出せない。でも、勇斗と一緒なら恐くない。
クロとシロ。
勇斗と大樹。
何も思い出せないけれど、きっと勇斗となら越えられる。
マシュが公園中を駆け回ってる。噴水の前でへばる頃には、止まっていた物語が動き出した。
「じゃ、俺ん家行こうか」
右手にはマシュのリードを、左腕には僕を抱えた勇斗が妖しく笑った。
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