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翌日。
上官は晴明の屋敷に行劉をつれてきた。
「あの…本当に鬼など出ないのでしょうか?」
「大丈夫じゃ。晴明殿は悪戯好きではあるが、人を脅すようなことはしない」
そういって屋敷の中へ入る。
そこは桃が咲く季節ではあったが満開していて桃源郷があるとしたらこのような場所ではないかと思うほど美しいところだった。
「ようこそお越しいただきました。我が主晴明はこの奥におられます。そこまでの道案内、私が務めさせていただきます」
そういって女が頭をさげてこちらへと手で示した。
屋敷に入ると長い長い廊下がありそこを真っ直ぐに進んでいる。
しかし…。
「あ…あのぉ」
「はいなんでしょう行劉殿」
「いや…道順はこちらでよかったのかと思いまして…」
「どうしてそう思われたのですか?」
まさか風の中の男がこちらだと指さすのが見えたのだとは言えずにいた。
「咲桃(しょうとう)その辺にしなさい。お客人にはどうやら道標回帰の結界は聞かぬようだ」
奥から若い男の声がした。
この声が…晴明殿の声…。
姿を見ても声を聞いたことはなかった。
晴明殿…聡明な想像を抱かせる声だった。
自分など…本当にあってもいいのだろうか?
「そのようでございますね。お二方、一見壁に見えるあの方向にお進みください。その奥こそわが主、安部晴明の待つ間でございます」
そういうと桃の花に変わった。
「こっこれは…?」
「陰陽師の使う式神の核だ。何かを媒体として人の姿を取らせるんだ」
「はぁ…」
壁の方に向かって歩いていく上官の後を追いかけていく。
上官は壁に手をかざしてぶつぶつとつぶやくとフォンと音が鳴り道が開けていた。
そして奥にはまだ二十歳になった頃だろうか…。
それはそれは若い陰陽師の服を着た安部晴明がいた。
「晴明殿久しぶりでございます」
「そんな、頭を垂れないでください。歳は私の倍なのですから。それに私は貴方に感謝せねばならない。斯様(かよう)に面白い風を連れてきてくださったのだから」
そういって行劉を見る。
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