平安時代~音と風~

5/5
前へ
/36ページ
次へ
「初めまして、いつも式神を通して見せてもらっておりました。君はどうやら西の地で槍を得意としていたのでしょう」 「西…ですか?」 「ええ、常に君を見守っている男がいる…きみはもうみておるのではないですか?」 そういって思い当たるのはあの男だけだった。 「その男は今からもう数えるのも能わぬほどの時をさかのぼって、はじめて出会えるほどの男です。そして…私にもそのような男がついております」 そういうと晴明のうしろから短髪の男が出てきた。 「うわっ!!」 「彼は西の地の言葉で音と呼ばれていた。この国の発音ではないし唐の発音でもない…さらに遠い西の地の言葉です」 その時、旋風が吹いた。 桜の花が中に舞う。 (久しいな。オルフェ) (ええ、久しいですな。まだ…アイズ様のことをお探しですか?あれから一万年は経つというのに…) 行劉はその声を聞いていた。 (なんだ…この声は?なんだこの会話は?) 「ふむ、まさか彼らの会話も聞き取れるほどとは、行劉殿には驚かせられますな。行劉殿。彼らはどうもずっと以前、彼らが生きていた時代からの戦友の様なのです。」 「えっ?でも…それって数えることも能わぬほどの昔の話じゃ…」 「ええ。その通りです。その時代からの戦友なのです。そしてこうして出会えること自体もまた偶然なのだそうです」 そういって印を結ぶと先ほどの娘、咲桃がふわりと出てきた。 「咲桃、あれを」 「はい」 そういって奥へと消える。 「さて、今咲桃に必要な資料を持ってこさせておりますが…、どこからはなせばよいやら…」 そう言って悩んでいる。 そうこれは上総行劉と若き日の安部晴明の話である。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加