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「初めまして、いつも式神を通して見せてもらっておりました。君はどうやら西の地で槍を得意としていたのでしょう」
「西…ですか?」
「ええ、常に君を見守っている男がいる…きみはもうみておるのではないですか?」
そういって思い当たるのはあの男だけだった。
「その男は今からもう数えるのも能わぬほどの時をさかのぼって、はじめて出会えるほどの男です。そして…私にもそのような男がついております」
そういうと晴明のうしろから短髪の男が出てきた。
「うわっ!!」
「彼は西の地の言葉で音と呼ばれていた。この国の発音ではないし唐の発音でもない…さらに遠い西の地の言葉です」
その時、旋風が吹いた。
桜の花が中に舞う。
(久しいな。オルフェ)
(ええ、久しいですな。まだ…アイズ様のことをお探しですか?あれから一万年は経つというのに…)
行劉はその声を聞いていた。
(なんだ…この声は?なんだこの会話は?)
「ふむ、まさか彼らの会話も聞き取れるほどとは、行劉殿には驚かせられますな。行劉殿。彼らはどうもずっと以前、彼らが生きていた時代からの戦友の様なのです。」
「えっ?でも…それって数えることも能わぬほどの昔の話じゃ…」
「ええ。その通りです。その時代からの戦友なのです。そしてこうして出会えること自体もまた偶然なのだそうです」
そういって印を結ぶと先ほどの娘、咲桃がふわりと出てきた。
「咲桃、あれを」
「はい」
そういって奥へと消える。
「さて、今咲桃に必要な資料を持ってこさせておりますが…、どこからはなせばよいやら…」
そう言って悩んでいる。
そうこれは上総行劉と若き日の安部晴明の話である。
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