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宇佐木と初めて話してからそんなに経っていないはずなのに。
中庭の木に呼び止められた気がして、懐かしい気持ちになった。
あの日。
椿の木にはもう、時間が無いようだった。
(いつもみてたの)
人で言うならば可愛いらしい声…というのか。
素直な好意が流れてきた。
(すき)
(でも、もうさいご)
物心ついた頃にはすでに特殊な感覚を持っていた。
抵抗が無いせいか、昔から不思議な存在に好かれやすいのだ。
何回か中庭を通る僕を見ていてくれたらしい。
その日は大雪で、寒さが苦手な僕はマフラーを巻いて食堂へ向かったのに。
自分の肩に積もる雪も、埋まる足元も。
その寒さを感じなくなるくらい、椿から流れてくる切ない感情に捕まってしまった。
優しい
嬉しい
切ない
悲しい…
思わず涙が出そうな純粋さに動けなくなる。
「おい。生きてるか?」
いきなり現実に引き戻す強い力で肩を掴まれた。
現実と向こう側との間で揺れながら、徐々に目の前の人物が誰かを把握する。
確か同じクラスの…
「お前…何か出してるだろう」
言葉だけ聞くと突拍子もないが、彼が無意識に自分がしていたことを理解してると感じて驚いた。
上手く表現出来ない感覚だからこそ無理やり言葉にすると突拍子もない印象になるのだ。
思わず考える前に言ってしまっていた。
「あ…出してるというか…交流してたんだ。会話みたいな…」
言った直後にハッとして口を押さえた。
こんなこと誰が理解してくれるというのだろう。
過去の思い出が甦り後悔した。
しかし彼は笑いながら言ったのだ…嘘を言ってないから信じると。
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