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その時まだ名前を知らなかった。
同じクラスの明るい体育会系の奴という印象と、顔は覚えていたのだけど。
特殊な感覚から周囲とはズレが生じやすく、少し距離を保つのが幼い頃からの自己防衛で。
1人でボンヤリしている事が多かったから名前どころか特定の友人など滅多に作れなかったのだ。
「感覚が鋭いのは認めるけど。乱暴だし人の都合聞かないんだよな。本当…」
懐かしい思い出から目の前の宇佐木に視線を向けるとブツブツ呟く。
首根っこ掴まれたのはよく覚えてるぞ。
「あの椿の木、無くなっちゃったんだな。新しいのが植わってる」
でかい図体で短髪をかきつつ、新しく椿の若木が植えられた場所を指さす。
「うん、もう花を咲かす力も無かったから」
「ふーん…最後の力で花を見せたのか」
ふと枝から落ちたかのように現れ、首元に寄り添った真っ赤な椿。
肩からゆっくり落ちて消えてしまった。
「ちょっと惹かれるよね」
そう思ってしまう自分はやっぱり変かもしれないけれど、可憐で可愛い感覚を思い出すと優しい気持ちになる。
「お前が言うと冗談にならない。人間にしとけ!そういやお前の好みって謎なんだよな。可愛いのと綺麗なのと色っぽいのと不思議なの、どれがいい?」
「最後の不思議なのが解らないんですけど…」
くだらない冗談を交わしながら若木へ視線を流し。
ありがとう
また宜しくね…
声に出さずに呟いて笑うと、新しく植えられた木の葉が微かに揺れた。
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