視線

3/6
前へ
/98ページ
次へ
静かな空間と本の匂い、緩やかに感じる穏やかな時間が大好きだ。 昼休みの図書室である。 今日は誰かに呼ばれたとかで、食べ終わった後は宇佐木と別行動をしている。 いつの間にか一緒に食事するようになっていたが、その前はよく図書室に来ていた。 考えたらあいつは友達が多い。 よく、すれ違いざまに肩を叩かれ軽口や挨拶を交わしている。 何故そんな正反対の奴と気付けば一緒にいるのか。 首を傾げ、まあいいかと本を読みはじめた。 周りの音すら意識から消えるほど本の世界は楽しい。 ページをめくりながら、ワクワクする展開に思わず笑みをこぼす。 ふと視線を感じて顔を上げた。 まばらに座る生徒達は静かに本を眺めている。 集中していたにもかかわらず感じた感覚が少し気になるけれど… 「気のせいかな」 時計を見上げて残り10分なのを確認すると本を閉じた。 静かに席を立ち、すぐ横にある窓から外へ何気なく視線を流す。 (ん?) 窓の下は校舎裏で、木々や花壇が並ぶ道だ。 そこによく知った顔。 知らない女子が何かを手渡す。 困ったように髪をかく彼が数秒後に頭を下げた。 女の子は弾かれたように見つめ、突然顔を伏せて校舎へ走っていってしまった。 普段なら見えないのに… 眼鏡外しとけば良かった。普通の交流ですら慣れてないため、凄い場面を目撃してしまいドキドキしてしまった。 ため息をついて窓から離れカウンターで本を借りる手続きをする。 名前を書き終わると眼鏡を外して胸ポケットにしまった。 あいつ相変わらずモテるよな。 人との関わり自体に免疫が薄い自分には衝撃が強すぎる。 平静を保とうと深呼吸をしてから廊下へ向かった。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加