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「おい。生きてるか?」
妙な問いかけだが状況的に的外れではないはず。
返事がない。
あれ?やっぱり幽…?と今さら少し迷いつつ。
ドカドカ近づき、肩に手を置くとこちらへ振り向かせた。
現実離れした風景に目を見張る。
一瞬誰なのかとか、性別とか、何があったのかとか、全て真っ白に消え。
数秒なのだろうが、とても長い時間止まった気がした。
黒い髪とマフラー、濃紺のブレザー。
不思議なほど澄んだ漆黒の瞳。
雪の積もったマフラーの耳元には真っ赤な椿が1輪。
白と黒と赤…
まるで絵画を見た時のような衝撃と「何か」を感じた。
「お前…なんか出してるだろ」
無意識に出た言葉。
動物の勘。
初めて相手の顔に人間らしい驚きが現れる。
先程の印象と違って高校生らしい幼い顔だった。
「あ…出してるというか…交流してたんだ。会話みたいな…」
俺の言葉につられたように答えた相手は途中でハッとして口を押さえた。
肩から椿がゆっくりと落ちていく。
最初は無防備な表情で呟くも何かを思い出したように口を閉ざした。
まるで、理解されないだろうと傷ついたような表情。
…はっきり言ってよく解らない。
解らないが、よく当たる自分の勘は信じている。
「難しいことは解らんけど、お前嘘ついてないから信じる」
何と交流だって?
周りに目をやると、相手の前には雪をかぶった椿の木。
息を飲む。
蕾など、1つも無かったのだ。
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